バタンッ


息を切らせ部屋に戻ると、そのままバスルームに駆け込んだ。



シャーーー・・・

目一杯コックを開いて熱いシャワーを浴び、何とか気持ちを落ち着かせようと努力する。



「ハアハアハア・・・」



後戻りは出来ない。もう、“任務”は始まっている・・・。

そう。賽は投げられた――



いろんな思いがよぎるけど・・・。全てを断ち切って、最後の覚悟を決めた。







数分後――

バスローブのままドレッサーの前に腰かけた。

鏡に映るのは、眉を寄せ唇を噛み締めている強張った顔の私。

想像以上に緊張している。いつも以上に鼓動が速い。



「駄目よ、こんな顔じゃ・・・。さあ、深呼吸・・・」



自分で自分を叱咤激励して、大きく深呼吸を繰り返した。

スー・・・ ハー・・・ スー・・・ ハー・・・

頭の中で描き出す成功のイメージ。精一杯、自分に暗示をかける。



大丈夫、きっと上手くいく・・・。きっと成功する・・・。

よしっ!



小さく笑みを浮かべて、鏡の中の自分にエールを送った。






丁寧に化粧を施していく。

くっきりと眉を描き、アイラインもややきつめに入れた。

濃い目の口紅をのせ、シャドウもハイライトも効果的になるように取り込んでいく。

髪の毛もきっちりと結い上げ、出来る限り大人っぽいイメージになるように自分を作り上げていった。



「まあまあ・・・かな・・・?」



鏡に向かってニッコリと微笑んでみた。

化粧が進むにつれて、不思議と気持ちが落ち着いてきた。

私とは違う、別の私。ここにいるのは、忍の私。



大丈夫。絶対上手くいく――



最後に、例のチャイナドレスに袖を通した。

ヒヤリとした感触に、身が引き締まる思いがした。

姿見の前で最終チェックを行う。

誇らしげに、挑むように、妖艶に笑う私がいる。

踵の高い靴に履き替え、勢い良く玄関を飛び出した。



さあ、任務開始だ――









ヒュンヒュンヒュン・・・



木々の枝や屋根を伝い、目的地を目指す。

履きなれない高い踵や、乱れやすい裾を気にする余裕など最早ない。

一分でも一秒でも早く・・・。

気持ちが逸って、下の道を辿ってなどいられなかった。









タンタンタン・・・

シュタッ――



気配を完全に消し去って、とある部屋のベランダに降り立った。



「・・・・・・・」



どんなに慎重に振舞っても、中の人に気取られるかもしれない。

大きな深呼吸を一つ。

そして、暗がりに身を隠しながら、素早く窓ガラスをノックした。



コツン・・・



耳を澄まさなければ気付かないような極々小さな音。

でもあの人ならこれで十分の筈・・・。



ガラッ――



間髪を入れず、窓ガラスが開け放たれた。

本当に素早い身のこなしね・・・。これがあなたと私の実力の差。

どう足掻いても埋め尽くされない才能の差。



「・・・サクラ?」



訝しげなカカシ先生の視線が、暗がりの私を見据えている。

どうして私がここにいるのかさっぱり分からないと無言で訴える目が、妙に私を高揚させた。



「こんばんは、カカシ先生・・・」

「どうしたのさ、一体・・・。任務は・・・? もう終わったのか・・・?」

「ううん、これから」

「これから・・・?」



一瞬、カカシ先生の顔が泣き出しそうに歪んで見えたのは私の思い上がり?

でも、それはほんの一瞬だけ。

あっと思った時には、もういつもの――、飄々とした、心の内の読めないカカシ先生に戻っていた。



「いいのか・・・、こんなとこにいて・・・」

「うん、まだ大丈夫。任務の前に、もう一度カカシ先生にお願いしておこうと思って・・・」

「・・・何を?」

「今夜の任務が無事に成功するためにはね、どうしてもカカシ先生の協力が必要なの・・・。だから・・・ね、お願い。私に協力して」

「協力って・・・、何をどう協力すれば・・・」



訳が分からないと眉を顰めるカカシ先生にスタスタと近づくと、出し抜けにぐいっと唇を押し当てた。



「ん・・・んぐぐ・・・」



一体何事が起こったのかと、慌てて私を引き離そうとするカカシ先生。

その首にギューッと腕を巻きつけ、絶対に離れるものかと踏ん張る私。



「や、や、止めろ・・・」

「・・・い・・・や・・・」



必死に逃げ惑うカカシ先生の唇を追いかけ、噛み付くように強引にキスを繰り返した。

化粧が落ちたってもう構いやしない。どうせ暗くて見えやしないんだもの。



「んがが・・・な・・・にして・・・るん・・・」

「むむむむ・・・だま・・・って・・てよ・・・」



とても色っぽいとは言い難い濡れ場の攻防戦を繰り広げながら、何とか部屋の中に入れないかと隙を窺う。

必死に押し止めようとするカカシ先生。

でも、私の服装に遠慮してるのか、無闇に力任せにも引き離せず困ってるみたい。

よしっ、負けるもんか!



「んぐぐぐ・・・や、止めろって・・・!」



やっとの事で私の身体を引き離すと、ハアハアと息を切らしながら、強張った顔で私を睨み付けた。



「どういうつもりだ・・・?」

「だから、カカシ先生に協力してもらいたいって、さっきから言ってるでしょう?」

「これのどこが協力なんだよ!」

「どこがって、全部よ」

「・・・お前、オレを馬鹿にしてるのか・・・?」



堪らず声を荒げて、感情を露わにするカカシ先生。

怖い・・・。そんな目で睨まれると、思わず身体が竦んでしまう・・・けど・・・。

でも、これは任務なんだから。れっきとした任務のためなんだから。

負ける訳にはいかない・・・。



「馬鹿になんか・・・してないわ・・・」

「・・・本当に、任務なのかよ・・・」

「本当よ・・・!」

「・・・じゃあ、見せてみろ」

「え・・・?」

「依頼書だよ。持ってんだろ? どんな任務なんだか見せてみろって」

「・・・見せられる訳ないでしょ。依頼されたのは私なのよ。そんなの守秘義務違反――

「いいから見せろって!」



ここか――

私の全身に素早く一瞥をくれると、乱暴にドレスのスリットを捲り上げた。

内腿のガーターリングに挟まれた小さな紙片。

あっと気が付いた時には、依頼書は既にカカシ先生の手の内だった。



「か、返して・・・!」

「・・・・・・何だ、これ・・・?」



懸命に手を伸ばしても届かない。

私を簡単に押さえ込みながら、先生が唖然と依頼書の内容を読んでいる。

到底信じられなさそうに、何度も何度も読み返しているようだった。



「サクラ・・・、オレの事・・・からかってる・・・?」

「からかってなんかないわよ。れっきとした任務なんだもの・・・。ちゃんと火影様の印だってあるでしょう」

「それにしたって・・・」



何だか納得がいかない素振りで依頼書を睨みつけているけど、仕方ないよね。

私だって最初は、「何これ!?」って思ったんだから・・・。

穴が開くほどまじまじと依頼書を眺め、やがてカカシ先生は、探るように恐る恐る私に尋ねてきた。



「・・・なんで・・・、ターゲットが “オレ” な訳・・・?」

「そんな事、依頼人に訊いてよね。私はただ依頼を受けただけなんだから・・・」

「・・・・・・」



よく見知った依頼人の名前を見付け、カカシ先生は心なしか脱力しかけている。

思わず失笑を漏らしながら、



「なるほどね・・・。それで、“どんな手を使ってでもターゲットの心の内を探り出し、本心を引き出せ” か・・・」

「だからね、カカシ先生に協力してもらわないと、どうしても任務成功できないのよ・・・。お願いだから協力して・・・」

「・・・・・・オレの本心なんて・・・」






簡単だろうに――






自嘲気味に視線を落としてポツンと呟くカカシ先生。

両肩をガクンと落として力を抜くと、ずるずると窓ガラスに寄りかかったまましゃがみ込んだ。






「はぁ・・・。こんな真似しなくても、サクラならお見通しでしょーよ・・・?」

「お見通し・・・? 何言ってるの!? 分かる訳ないじゃない!」

「・・・サクラ?」

「カカシ先生が何考えてるかなんて全然分からない! どうして『暫く独りにしてくれ』なんて言い出したのか、全然分かる訳ないじゃないの!」



力なく私を見上げるカカシ先生に、思わず苛立ちが募る。

先生の本心が分かるものなら、こんな面倒な事するわけないわ。

握った拳をブルブルと震わせて、思わず怒りを露わにしてしまった。



「サクラ・・・」



そんな私を静かに眺めて、やがて、観念したようにニッコリと先生が笑う。



「オレはいつだってサクラを想ってるよ」

「嘘・・・!」

「嘘じゃない・・・。オレはサクラを愛してる・・・」

「じゃあ、どうして・・・!?」






どうして、あんな事言ったの!? どうして私を突き放そうとしたの!?

どうして・・・ どうして・・・ どうして・・・

この数日間、私がどんな気持ちで過ごしていたか・・・。

どうして、今更『愛してる』なんて言えるの!?






「それは・・・、オレの想いが、サクラにとって邪魔になるから・・・」

「え・・・?」

「いつかこの気持ちが、サクラの負担になりかねないから・・・。だから、暫く独りで頭を冷やそうと思った・・・」

「わかん・・・ない・・・よ、何、言ってるのか・・・」

「あの時・・・、サクラの格好を見てね、『とうとうその手の任務が来たのか』って思った・・・。嫌がるどころか、楽しそうに鏡に向かうお前を見て、

 思わず、言いようのない怒りを覚えたんだ・・・」

「違う! あれは、そんなのじゃない・・・! ただ・・・、好奇心であのドレスを着てみたかっただけで・・・」

「ああ、分かってたよ、オレの勘違いだって・・・。あの後すぐに気が付いた・・・」

「じゃあ、何で・・・」

「勘違いでも何でも・・・、オレがそう思ったことは事実なんだよ」

「カカシ先生・・・」

「サクラに任務を言い渡した火影様に・・・、そして、それを受けて立ったサクラに・・・、ほんの一瞬だけど、どうしようもなく苛立って、

 ターゲットになった見ず知らずの男にどうしようもなく嫉妬して・・・、そして、そんな自分に堪らなく嫌気が差した・・・」

「・・・・・・」

「オレは、知らぬ間にサクラの可能性を潰している・・・。忍として更に上を目指そうとするサクラの未来を、オレの勝手な我儘で奪っている・・・。

 上司として、やってはいけない事なのになぁ・・・。いつの間にか、オレの都合を無理矢理押し付けていることに気付いちゃってね。

 もっと冷静にお前と向き合わなくちゃなって・・・。だから、少し独りで頭を冷やしたいって思った訳よ・・・」

「・・・・・・なに・・・それ・・・」






ずいぶんと勝手な理屈に、怒りがふつふつと沸き上がって収まりきれない。

ハハハ・・・と力なく笑うカカシ先生が、救いようもなく苛立たしくて、情けないほどに愛しかった。

仁王立ちのまま、じっとカカシ先生を睨み付けながら、ポロポロと零れ落ちる涙をグイッと勢い良く拭き払う。

握った拳に光る、アイシャドウのパール。

滑稽なほどキラキラ光っていて、凄く綺麗だな・・・なんて場違いな事を思い浮かべてしまった。






「そんな・・・そんな事、勝手に決め付けないで・・・」

「・・・・・・」

「私の可能性を潰してるとか、未来を奪ってるとか、勝手に先生一人で決め付けないでよ!」

「・・・・・・」

「自分の未来は自分で勝ち取るわ。本当に欲しい未来だったらカカシ先生に遠慮なんかしないで・・・、カカシ先生踏み台にしたって奪い取ってやる」

「ハハハ・・・、勇ましいねぇ・・・。それでこそサクラだ・・・」

「茶化さないで!」

「茶化してないかないよ・・・。本当に・・・、そうするべきだよ・・・」

「だったら聴いて・・・。私が一番欲しい未来は、カカシ先生がずっと一緒にいてくれる事なのよ・・・」

「・・・・・・それは・・・」



何かを諦めるような淋しそうな作り笑い。

静かに首を横に振って、また私から距離を置こうとしている。

そうやって、今までもいろんな物を諦めてきたの?

そうやって、私の事も諦めちゃうの?

カカシ先生はそれで後悔しないの?

私は・・・、私は、絶対に嫌。そんな未来は、絶対に嫌だ――






「私・・・、先生のいない未来なんて、いらない」






ゆっくりと膝を折り、覗き込むように目線を合わせた。

触れ合えそうなくらい間近な瞳。

じっと視線を外さず、祈る気持ちで囁いた。

眩しそうに細められる瞳が揺らいで見える。

交差する瞳。交差する想い。

分かってよ・・・。私の気持ち。

どれだけカカシ先生が大好きで、必要としているのか・・・。

ねぇ、分かって・・・!



「・・・・・・」



ゆっくりと目蓋が閉じられる。

そしてそのまま、何かを考え込むように押し黙るカカシ先生。

怖い・・・。

何を、考えているの・・・? 私の願いは、聞き入れられないの・・・?

また、突き放されたら・・・、また心を閉ざされたら・・・、嫌だ。そんなの嫌だ!



「・・・せん・・・せ・・・」



自分でも呆れるほど、声が潤んでいる。

怖くて、心細くて、膝や腕がガクガクと震え出した。

必死に先生の身体にしがみ付き、顔を埋める。

もうあんな思いはしたくない。お願い、助けて、カカシ先生・・・!







「・・・サクラ・・・」



やがて、耳元を震わすように、優しく囁く声が聞こえた。

大きな手が、ゆっくり・・・、ゆっくりと、私の背中を撫でている。

恐る恐る顔を上げてみると、愛しげに私を見る柔らかい瞳があった。






「オレも、サクラのいない未来なんて、考えられない」






長い指が静かに髪に触れ、滑るように頬にかかる。

そのまま引き寄せられるように、静かに唇が重なった。

互いの気持ちを確かめ合うように、何度も何度も舌が絡み合う。

優しく・・・ そして、力強く・・・



「・・・んん・・・んぁぁ・・・」



先生の舌が熱い。息が甘い。

目の前がクラクラとして頭の芯がボーッとなっても、離れる事なんてとても出来ない。

より一層きつく抱き合って、何回も何回も唇の感触を確かめ続けた。



「いいの・・・? オレがサクラの未来奪っちゃってもいいの・・・? このままオレの我儘押し付けちゃっても後悔しないの・・・?」

「何度も同じ事言わせないで・・・。先生が奪うんじゃない、私が望んでるの・・・!」

「そうか・・・そうだね・・・」



ニッコリと大きく微笑んで、グッと力強く肩を抱かれる。

そして、また唇を強く押し当てられた。

喉元や首筋に熱い息を吹き掛けられ、どんどん鼓動が跳ね上がる。

剥き出しの腕の内側にもきつく吸われた痕をいくつも残され、思わず顔が赤くなった。



トク、トク、トク・・・



シルクの布越しに、カカシ先生の熱と確かな鼓動を感じる。

そう・・・、この感じ・・・。

私が、この世で唯一安心できる場所は、ここしかない――






「カカシ・・・せんせ・・・」

「ストップ・・・! 続きは部屋の中で・・・ね・・・」



ニヤリと先生が笑った。

あ、そうか・・・。ここは外でした・・・。

思わせ振りな視線で、周りの気配を窺っているカカシ先生。



シン・・・と静まり返っている隣近所や目の前の往来。

夜だから静かなのは静かだけど、あまりにも静か過ぎるような・・・。






「・・・え・・・まさか・・・」

「・・・ははは・・・そうみたいだな・・・」






どうやらみんな息を潜めて、事の成り行きを興味津々に窺ってるみたいで・・・。









途端に顔が真っ赤になった。

いくら暗いとはいえ、こんなあられもない格好で、人前で堂々とカカシ先生に押し迫ってた事、明日には里中のアチコチで噂になってるはず・・・。

慌てて身を縮めながら先生の陰に隠れようとすると、大きな身体が私を庇うように守ってくれた。



「ど、どうしよう・・・」

「だいじょーぶ! オレがそんな事させやしないって」

「え・・・?」



オロオロと顔を見上げると、頼もしそうにカカシ先生が笑っている。



「オホン・・・」と、わざとらしい咳払いをすると、



「あー・・・、まさか他人の恋路に茶々入れるような無粋な奴はいない筈だから・・・。まあ、もしもいたらいたで、その時はゆーっくりと、

 改めて挨拶に廻ればいいだけだし・・・、サクラは気にすることないって・・・」






ササッと静かな気配たちが一斉に消え去った。

さすが、カカシ先生・・・。

ホ・・・ッと安心して、大きな肩にもたれかかっていると、また、しっかりと抱き返してくれた。

それだけの事なのに嬉しくて嬉しくて、胸の奥がジン・・・としてしまう。



良かった・・・。これでもう、カカシ先生と一緒にいられ――


「あー・・・、ごめん・・・。もっと早く気付くべきだった・・・。サクラのこんな艶かしい格好、奴等には目の毒過ぎたな・・・」








え・・・、目の毒過ぎ・・・?



何の事かと自分の姿を見直した。






「え、え、えぇ・・・!?」



思えば、ずっと無造作にベランダにしゃがみ込んだままの私。

そしてそのまま人目も気にせず、結構ハードなラブシーンをやってたりもして・・・。

その結果、それでなくても普通より大胆に切れ上がっている両脇のスリットが、完全にずれ上がって捲れ上がって、

太腿は見事なまでに全開になっていて・・・。

しかも、いつも穿いているスパッツを今日は穿いている訳などなく・・・。






も・・・もしかして・・・、し、下着が、丸見え・・・?






「や、やだーーー!!!カカシ先生の馬鹿馬鹿馬鹿ーーー!!!」






慌てて部屋の中に転がり込んで、カーテンをシャッと勢い良く閉めた。

カカシ先生はというと・・・、窓際でお腹を抱えてクックッと笑いを堪えている。



「ひ、酷い・・・。どうしてもっと早く教えてくれないのよぉ!」

「ご、ごめん・・・。オレもついさっき気が付いた・・・」

「せっかく頑張ったのに・・・。頑張って任務成功させようとしたのにー・・・!」



恥ずかし過ぎて顔からボンボン火の玉が飛び出しそう・・・。

今ならサスケ君の火遁の術も、難なくクリアできるかも。

八つ当たりだと分かっているけど、笑いを堪える丸まった背中をポカポカと叩き捲くった。

そうでもしないと、そこら辺にあるものを手当たり次第叩き割りそうな気がしたから・・・。



「成功しただろう?」



隙を見てくるっと振り向くと、カカシ先生がやんわりと手首を掴んでくる。



「ちゃんと成功させたじゃないか」



柔らかく笑いかけながら、スッポリと胸の中に抱き寄せられた。

それだけで、もう私の気持ちは、ストン・・・と、落ち着いてしまう。

スリスリ・・・と顔を埋めて、カカシ先生の匂いを胸一杯に満たした。

パラパラとほつれかけた髪をスーッと静かに撫でられる。

思わず目を細め、うっとりとしなだれかかった。



「・・・そう・・・かな・・・?」

「すっかり洗いざらい白状させられちゃったし・・・、お見事でしたよ、サクラさん」



おどけた口調で、カカシ先生がジッと顔を覗き込んでくる。

そういえば私の顔って、すっかり化粧が剥げ落ちてるよね・・・。



「あ、あんまり見ないで・・・。酷い顔でしょう・・・?」



慌てて顔を背けようとしたけど、グイッと顎を掴まれ元に戻された。



「だめ、ちゃんと見せて」

「や・・・」

「綺麗だ・・・。とっても・・・」



瞳を捉えられたまま、スーッとカカシ先生の唇が近付いてきて、舌先であちこちをなぞられた。

涙の跡を丁寧に辿りながら、顔中にたくさんキスの雨を降らせてくる。



「は・・・はぁ・・・」



それだけなのに、もう息がどんどんあがってしまった。

ドキドキドキドキ・・・

自分でも驚くほど鼓動が速い。思うように息ができない・・・。



アイシテル・・・



耳元で何度も何度も囁かれ、その度に身体の芯がとろとろに蕩けそうになった。

甘い微熱に酔い痴れて、もうすっかりカカシ先生の虜になっている。









ツー・・・とスリットをたくし上げられ、背中のファスナーを引き下げられる。

それだけで、早くも頭の中が真っ白になってしまった――